沼津市都市計画部まちづくり政策課 筑城 浩介
空きビルの暫定活用でまちなかに「出来事」を起こす行政の役割

今回は、静岡県沼津市都市計画部まちづくり政策課の筑城浩介(つゆきこうすけ)さんに、プレイスメイキングキットを使ったビルの暫定利用についてのお話を伺いました。まちなかにプレイヤーやコンテンツを増やしていきたいという思いから、空き店舗を魅力的な空間に変えることが第一歩だと話してくれました筑城さん。取材チームは沼津市が実施するまちなかのビルを半年間0円で10組のメンバーに貸し出すというプロジェクト「丸天ビル_for now」の会場でプレイスメイキングキットが使われているとのことで、その会場を訪れました。

―沼津市のまちなかについて教えてください。
まちなかの課題は、空きビルや空き店舗が増加していることです。空き店舗が増えた主な理由は、事業継承がうまくいかなかったことや、オーナーが物件を使わなくても経済的に困っておらず、他人にスペース貸すこと自体が消極的になっているためです。まちに空いているスペースが多いこと自体が街の価値を下げてしまうと危惧しています。

―なるほど。まちなかの価値を維持するために、工夫していることはありますか?
空き店舗のオーナーに声をかけて、シャッターを開けるために関係性を築く地道な活動を続けています。同時にまちなかに住む人や商売を始める人を増やしていこうと思います。そのためにもビルの暫定利用は効果があると思います。空き店舗をそのまま使うのではなく、実際に使われていてアクティビティが起こる仕掛けをしたり、設えも工夫し魅力的な空間になっていることが重要です。空間を使っている風景、使えそうな雰囲気を見せることで、人は空間のイメージが湧くものです。

―プレイスメイキングキットの感想をおしえてください。
やっぱり紙の手触りがいいです。また紙の素材感がどんな空き店舗でも馴染むし、魅力的に見えます。やっぱり空間を使っている様子が魅力的じゃないと、他の人がマネしたいと思わないじゃないですか。
行政が管理する、道路や歩道、広場は公共スペースなので、我々が活用することはできますが、まちなかの建築物は個人の所有物なので、エリア全体の価値をみんなであげよう、という気持ちを持ったオーナーさんたちとの協力関係が不可欠です。プレイスメイキングキットを使って、暫定利用のハードルが下がることで、オーナーさんたちがパブリックマインドを持つきっかけになると思います。

―これまでの沼津のまちなかのまちづくりの取り組みについて教えて下さい。
3年前の空き物件の調査では、500件以上の空き物件がまちなかにある事がわかり、オーナーにアンケートを出しました。通常、行政のアンケートの返信率は2割程度ですが、約5割の返信があり、そのうち連絡を取り合いたいという回答が67件ありました。まちなかの不動産オーナーの課題意識が高いことがわかります。課題解決していくために、民間に比べて行政の強みである「信頼」を使って、オーナーたちとつながり、実施は公民連携をしていく方法をとっています。たとえば、半年間ビルの暫定利用をするプロジェクトの企画を民間事業者に発注したり、まちなか土地・建物活用アドバイザー派遣という制度を設置し、民間の専門家を派遣する仕組みを作り、物件ごとに課題設定と解決方法をアドバイスしてもらうことで、リノベーションや暫定利用のためのプロジェクト化のきっかけを作っています。

―課題解決に向けた取り組みがされているのですね。では、今後の展開をお聞かせください。
沼津市が掲げる中心市街地まちづくり戦略は、沼津駅の高架化を契機に、駅前に広場を整備し、まちなかは車の通行を制限し、人中心のまちなかを目指しています。行政が目指すところは、しっかり固定資産税をいただき市民サービスに還元することで、住みたいと思える街にすることです。なので、我々がやらないといけないのは、街の価値をあげることです。沼津は今、ビルオーナーの代替わりが始まってきました。このタイミングをしっかりと見極め、民間の事業者、市民の方々と共に戦略的に動いていこうと思います。

(写真:野呂美帆)

Profile
沼津市都市計画部まちづくり政策課まちづくり推進係筑城 浩介
2009年に沼津市役所入庁。公共施設の新築・改修の設計や工事 監理、再配置計画の策定などの業務を経て2019 年より現職。これまで「公民連携のまちづくり」 をモットーに、まちなか居住の促進、公共施設・公共空間の利活用等を担当。